群馬大学大学院医学系研究科総合外科学講座

診療のご案内

消化管外科(下部)

下部消化管グループでは大腸がんなどの悪性腫瘍を中心に、潰瘍性大腸炎やクローン病など大腸にかかわる疾患を幅広く診療しています。大腸がんにかかる人や、潰瘍性大腸炎・クローン病にかかる人は毎年増え続けています。私たちは、これらの疾患に対して腹腔鏡手術を早期から導入し、可能な限りからだに優しい治療を心がけております。一方で、病状が進んでしまっている場合には、他臓器を合併切除する拡大手術や患者さんの個々の状態に合わせた抗がん剤治療、他の診療科と連携した集学的治療も積極的に行っております。また、鼠径ヘルニアといった良性疾患も専門的に治療を行っております。もし、ご病気でお困りになっていたり、あるいはご家族がご病気で心配なさっていらっしゃれば、遠慮なくご相談下さい。

1. 大腸がん

大腸がんの発生は生活習慣と関わりがあるとされ、赤肉や加工肉の摂取,飲酒,喫煙により大腸がんが発生する危険性が高まるといわれています。 近年、大腸がんの罹患数は増加傾向にあります。2016年の日本での罹患数は、男女を合計した全体では第1位となっており、日本で最も多いがんとなっています。死亡数も増加傾向にあり、2018年の日本での死亡数は肺がんに次いで2番目に多いがんです。 また、家族性大腸腺腫症やリンチ症候群の家系では、近親者に大腸がんの発生が多くみられます。 大腸がんの症状は、血便(便に血が混じる)や下血(赤または赤黒い便が出る)、下痢と便秘を繰り返す、腹痛、便が細い、おなかが張る、貧血、体重減少などがあります。しかし、自覚症状がない患者さんも多く、大腸がん検診の便潜血検査をきっかけに発見される場合も多くあります。

大腸がんの手術

大腸がん手術には、従来から行われている開腹手術と1990年代から発達してきた腹腔鏡手術に大きく分かれています。

  • 開腹手術は、大きくおなかを切開して手術を行います。術野が大きくなるため手術時間が早いなどの利点がありますが、大きな傷のため痛みが強いことが多く、術後早期に歩くことができないこともあります。ただし、大きながんや他の臓器へがんが浸潤している場合は、開腹手術を行うことが多いです。

  • 腹腔鏡手術は、ポートと呼ばれる小さい穴から手術を行います。一つ一つの傷は小さいため痛みは比較的少なく、術後早期に歩くことが出来る方が多くいます。そのため、早期の食事再開・退院・社会復帰が可能になります。 また、高画質な画像を見ることで微細な解剖(神経や血管など)を認識し、手術チーム全員でそれを共有出来るため、根治性・機能温存性が向上する可能性があります(特に直腸がん)。

    ISR手術(アイエスアール手術)

    直腸がんのうち肛門に近い腫瘍の場合、がんの根治性を損なわないために肛門ごと直腸を切除する必要があり、その場合には永久人工肛門を作成します。(直腸切断術) 早期がんなどの場合、肛門に近くても根治性を損なわずに肛門を温存して切除が可能なこともあります。当院では肛門をなるべく残すため、肛門温存手術のひとつである括約筋間直腸切除術(ISR:InterSphincteric Resection)を積極的に行っています。

    患者さんの希望に応えるため、がんの根治度を落とさないよう術前にしっかり検査を行い、肛門温存できるか否か判断します。肛門に近い吻合(腸と腸のつなぎ目)の場合は、縫合不全といった合併症の割合が高いため、一時的に人工肛門を作成します。

    TaTME手術(ティーエーティエムイー手術)

    骨に囲まれた骨盤内にある直腸の手術は難易度が高く、特に肛門に腫瘍が近い症例や腫瘍の大きい症例、骨盤の狭い症例、肥満の症例はさらに手術操作が難しくなります。 経肛門的全直腸間膜切除術(TaTME手術)は、肛門から腹腔鏡手術を行う新しい手術方法です。おなかからの手術のみでは難しい直腸病変までの距離が短いため、手術がやりやすくなります。

    Zorron R et al. "Down-to-Up” transanal NOTES Total mesorectal excision for rectal cancer: Preliminary series of 9 patients. J Minim Access Surg;10:144–150, 2014

    病変が肛門に近くても、おなかからの手術と違い病変から近い位置で手術ができるため、ぎりぎりまで肛門温存ができる可能性があります。そのため、世界で注目されている手術方法です。

    大腸がんの抗がん剤治療

    抗がん剤は、手術後に再発を予防するために行う術後補助化学療法と、肝臓や肺などに転移した場合にがんを小さくするために行う全身化学療法の大きく2つに分かれます。 いずれも外来通院で治療を行います。 術後補助化学療法では、3-6ヶ月と期間を区切って治療を行います。内服のみ、内服と点滴、点滴のみと、いろいろな治療方法があります。 全身化学療法では、患者さんの状態・がんの遺伝子の状況・生活環境などを考慮して患者さん一人ひとりに合わせた治療方法を選択し、オーダーメイド治療を行っています。こちらも、内服のみ、内服と点滴、あるいは点滴のみの治療方法があります。

    大腸がんの集学的治療

    進行直腸がん:CRT,HCRT

    高度に進行した直腸がんの場合は、手術のみでは治療効果に限界があります。がんに対して少しでも治る可能性を高めるために、術前に化学療法や放射線療法を組み合わせた化学放射線療法(CRT〈シーアールティー〉)やCRTに温熱療法を加えた温熱化学放射線療法(HCRT〈エイチシーアールティー〉)を行ってから手術を行う集学的治療を行っています。進行した直腸がんの場合、CRTやHCRTを用いて腫瘍を小さくすることで手術の根治度を向上させ、かつ肛門温存を目指しています。

    直腸がんHCRT前
    直腸がんHCRT後

    転移・再発大腸がん

    大腸がんは、他の臓器に転移や再発を来しても切除可能であれば切除をした方が予後が良いとされています。そのため、当科では転移・再発大腸がんであっても積極的に切除を行っています。 切除が難しい場合は、抗がん剤治療や放射線治療を組み合わせて治療を行い、可能な限り根治を目指した治療を行っています。特に群馬大学は重粒子線治療が行える国内でも数少ない施設であり、手術に代わる治療としてそれらを組み合わせた集学的治療も行っています。

    2. 炎症性腸疾患

    炎症性腸疾患はIBD(Inflammatory bowel disease,アイビーディー)と呼ばれ、主に「潰瘍性大腸炎」と「クローン病」があります。 潰瘍性大腸炎もクローン病も、今のところ原因がわかっておらず、発症すると長期間の治療が必要な慢性の病気です。基本的には、消化器内科医による内科的治療(内服・点滴・食生活の指導)が主になります。 しかし、内科的治療で症状が安定しない場合や、大腸や小腸に穴が開いたり狭くなったりして状態が悪化した場合、がんが合併した場合は、外科的治療が必要になります。 外科的治療は、狭いところ・穴が開いたところを手術で取り除きます。また、潰瘍性大腸炎でがんを合併した場合や大腸全体の状態が悪い場合には、大腸をすべて切除する必要があります。 従来は開腹手術で行っていましたが、慢性の病気のため長期的には複数回の手術になることも多く、手術後に腸同士が癒着してしまい次の手術が困難だったり腸閉塞をおこしたりします。 当院では、先述した大腸がん治療に対する腹腔鏡手術を、炎症性腸疾患の手術にも使用しております。そのため、傷は小さく、複数回の手術になっても腸同士が癒着しにくいため、早期社会復帰を目指せます。

    潰瘍性大腸炎に対する主な術式

    クローン病の腸管狭窄に対する手術の例

    ハイネケミクリッツ型狭窄形成術

    3. 鼠径ヘルニア

    鼠径(そけい)ヘルニアは、おなかの壁の弱いところから、おなかの中の臓器(小腸や大腸、大網という脂肪組織など)が皮膚の下に飛び出してくる病気です。一般的には、「脱腸」と呼ばれる状態です。鼠径ヘルニアは子どもの病気と思われていますが、実際は手術を受けられる方の9割が15歳以上の成人であり、多くは65歳以上の方が受けられています。男女比は4~8:1程度で、男性に多い疾患です。 *鼠径:足のつけねあたりを指します

    鼠径ヘルニアの治療

    鼠径ヘルニアは、本邦で年間14~15万件程度の手術が行われており、日本で最も多い外科手術です。治療法は手術以外にはありません。 手術では、飛び出した臓器をおなかの中に戻し、おなかの壁の弱いところを補強します。補強の方法は、自分の筋肉を縫い合わせる方法と、補強のための専用の人工物(メッシュ)を使用する方法があります。前者では手術後の痛みが強く、再発率も高いため、メッシュを用いた手術が広がった1990年以降は、ほとんどの方でメッシュを使用した補強が行われています。 手術のアプローチ法により、鼠径部を切開する方法と、腹腔鏡下の2種類に大きく分けられます。また,それぞれの中にも、使用するメッシュ等によって術式はさらに細かく分かれています。 ヘルニアの手術は「おなかの壁の弱いところを補強する」というシンプルなものですが、患者さん一人ひとりの状態や、過去のご病気・手術歴などによって、最適と思われる術式は変わってきます。

    鼠径ヘルニアの手術(前方アプローチ)

    鼠径ヘルニアの手術(腹腔鏡下手術)

    右鼠径ヘルニアに対する腹腔鏡下手術例 おなかに小さな傷を作り、ヘルニアを治療します。 5mm 3ヶ所を基本としています。

    ① 腹腔鏡下手術の術中所見。おなかの壁に穴(ヘルニア門)があります。ここから腸が出てきます。

    ② 赤丸がヘルニア門です。ヘルニア門のまわりにメッシュが展開され、補強されています。 丁寧な操作を行うことで、手術野にはほとんど出血を認めません。

    ③ 手術終了時。腹膜という薄い膜は完全に閉鎖され、癒着防止用フィルムが貼られています。 組織のダメージを最小限に抑えて、おなかの壁の補強が出来ます。

    当院の治療の特色

    大学病院であるため、種々の合併症や既往歴などを有する患者さんの治療を多く行っております。当院のヘルニア手術は腹腔鏡下手術を基本としていますが、患者さんの状態に合わせて鼠径部切開法も選択しています。我々のコンセプトは、患者さんの身体への負担がより少なく、術後の満足度の高い、ヘルニアスペシャリストとしての治療を提供することです。

    治療の流れ、退院後の注意点について 当院では手術前日入院、手術、翌日退院という二泊三日を基本として治療を行っています。(患者さんの病状に応じ、早期入院や、退院までに時間を要する方もいらっしゃいます) 術後は1ヶ月程度、あまり重たいものを持たないなど、腹圧が掛からない生活を心掛けましょう。 その他のヘルニアについて 鼠径ヘルニアの他にも、腹部手術後で弱くなったおなかの壁が緩んで臓器が出てきてしまう腹壁瘢痕ヘルニアという病気や、臍ヘルニア、その他の稀な腹壁ヘルニアについても積極的に治療を行っています。 手術はメッシュを用いた腹腔鏡下手術を中心に行っていますが、患者さんの状態やご希望により、形成外科とも合同で自家組織を用いたヘルニア修復術を行っています。

    医療関係の方へ

    下部消化管グループでは、大腸がんや炎症性腸疾患を中心とした大腸疾患全般の外科治療を行っております。近年、大腸がんは日本で最も罹患数の多いがんとなり、大腸がん診療は日本のがん治療の中で最も重要な位置づけとなっております。特に、外科治療は大腸がん治療の中でも中心となる治療方法であり、我々はその治療成績を上げ、一人でも多くの患者さんを救うべく、日々努力を重ねております。 腹腔鏡手術は、従来の開腹手術に比べて低侵襲で早期社会復帰が可能な選択肢として、すでに広く認識され定着しております。我々もこれまでに多くの患者さんに腹腔鏡手術を行い、さらには上述したようにISRやTaTMEといった新たな技術改良も加えて、患者さんの根治性を損なうことなくQOLの向上に努めております。 その一方で、局所進行大腸がん、あるいは転移・再発大腸がんの治療成績の向上にも努力を行っております。他臓器浸潤大腸がんに対しては浸潤臓器の合併切除を積極的に行い、根治を目指した治療を行っております。さらに、肝や肺などの転移症例に対しても肝胆膵外科・呼吸器外科に協力いただき多数の切除術を行っております。しかし、手術のみでの治療成績は限界があるのも事実であり、さらなる治療成績向上のための工夫も行っております。化学療法、放射線治療を組み合わせた多診療科での集学的治療を積極的に行い、患者さんそれぞれの生活や病状に合わせた、オーダーメイドの治療に取り組んでおります。その中でも、HCRTや重粒子線治療を含めた集学的治療は、群馬大学にしかない特徴的な治療方法として積極的に取り組み、患者さんへの侵襲を可能な限り軽減した上での治療成績向上に努めております。 大腸がん以外にも、炎症性腸疾患の外科治療や研究、鼠径ヘルニアを中心とした腹壁疾患に対する、低侵襲でQOLを考慮した治療の導入など、幅広く診療を行っております。 地域の患者さん、先生方のお役に立てる事であればどの様な些細な事でも大丈夫ですので、いつでもご紹介・ご相談いただければ誠心誠意対応させていただきます。

    • 国立大学法人 群馬大学
    • 群馬大学医学部附属病院 臨床研修センター
    • National Clinical Database 外科系の専門医制度と連携した症例データベース

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