総合外科学講座

呼吸器外科学分野

診療案内

| 診療内容・診療方針

 呼吸器外科での診療指針と特徴は以下の3つです。
【1】「真の意味で患者さんに信頼される安全に努めた医療」を実践していく
【2】良性から悪性、救急医療まで幅広い医療を展開していく
【3】「群馬大学で治療をしたい」を目指して

【1】の実践のために、以下の3項目を行動規範として診療を行っております。

  1. 診療は医の倫理に基づき患者さんの安全に努めた医療を実践し、規則や手順を遵守する。特殊な病状に対する手術や高難易度手術に関しては外科診療センター全体もしくは病院の倫理委員会の承認を経て、患者さんに十分な説明をした後に同意を得て行う。
  2. 医療を提供するチームの一員としてメディカルスタッフと連携し、チームとして信頼される安全な医療に努める。
  3. 医療安全研修やチームワーク研修などに積極的に参加し、安全かつ有効な医療を提供している施設との交流をはかり、技術の向上に努める。

大学病院の使命は、あらゆる疾患に対して、どのような状況においても最新の知見に基づき、患者さん一人一人にあった医療に努めること、つまり【2】の実践だと考えています。

そのために、以下の項目を実践しています。

  1. 悪性疾患はもちろん、炎症性肺疾患や、重度の循環器・呼吸器・腎疾患などを併存した患者さんを積極的に受け入れ、他科と協力して安全な外科治療に努めている。
  2. 早期肺癌や転移性肺腫瘍などに関しては、胸腔鏡技術と区域切除を組み合わせ、低侵襲アプローチで病巣を切除しながらも呼吸機能を温存する、「根治性とQOLに配慮した手術」を追求している。
  3. 進行肺癌関しては、呼吸器・アレルギー内科や放射線治療科、その他の関連科と協力して積極的に集学的治療を行っている。また、他臓器浸潤肺癌に関しても総合外科の強みを生かして、循環器外科・消化管外科・乳腺・内分泌外科等と協力して安全に多臓器合併切除症例などにも取り組んでいる。
  4. 胸部外傷や気胸、膿胸などの良性および緊急を要する肺疾患に関しても積極的に治療に取り組み地域の救急医療にも貢献している。

進行肺癌に関しては、外科治療だけでは治らない場合も多く存在します。当院においては、呼吸器・アレルギー内科と連携して術前・術後の補助化学療法を積極的に行っております。また、今後増加することが見込まれる放射線治療後(もしくは放射線化学療法後)や分子標的治療後の再発・再燃患者さんに対して根治を目指して行うサルベージ手術も行っております。

このように、我々は、進行・再発肺癌においても【3】のとおり「群馬大学で治療をしたい」と言われるように、日夜、呼吸器外科の診療に取り組んでおります。きています。低侵襲手術の代表として、胸腔鏡下手術(胸腔鏡をもちいて小さい切開創のみで行う手術)と、呼吸機能温存のため区域という肺の解剖学的最小範囲で肺癌を切除する術式(区域切除術)を組み合わせた胸腔鏡下肺区域切除という手術が盛んに行われるようになってきました。しかし、この手術は肺葉切除術と比較し、詳細な肺解剖の理解と繊細な技術が要求される手術です。我々は、胸腔鏡下肺区域切除を10年以上前より精力的に行っており、多くの症例経験を有しています。また、安全・確実に行うための努力として、様々な臨床研究も行っています(「臨床研究」欄参照)。

 また、肺癌治療は、現在手術単独では制御が難しいことも多く、より有効な薬物療法の開発が期待されています。肺癌の薬物療法は、近年飛躍的に進歩・変遷し、2004年に分子標的薬が登場し、さらに2016年より免疫チェックポイント分子阻害薬が臨床応用され、症例を適切に選択することにより、これまで標準治療であった従来の抗癌剤よりも有効な治療法となっています。ただし、それらの効果は一部の症例に限られ、一時的で根治に至らない症例が依然として多いことから、一層の基礎研究を推進していく必要があります。

 現在、当教室では、呼吸器外科領域の疾患を対象に、基礎研究から臨床研究、そして臨床試験まで様々な分野の研究を行っています。


| 主な対象疾患
肺疾患:

原発性肺癌、転移性肺腫瘍、良性肺腫瘍、自然気胸、先天性肺疾患(小児を除く)

縦隔疾患:

胸腺腫瘍、神経原性腫瘍、胚細胞性腫瘍

重症筋無力症

胸壁・横隔膜疾患:

| 得意とする分野

当科では、安全かつ患者さん一人ひとりに合った治療を提供するために、以下のような取り組みを行っています。

肺機能の評価は、肺の手術をする上で一番大切な機能検査です。我々は、手術前に詳細な肺機能の評価を行い、レントゲンやCTなどの画像所見と合わせることで、潜在的な(今まで診断されていなかった)肺気腫や間質性肺炎などを事前に見極め、手術前に呼吸訓練や吸入薬などの治療を行い、肺機能をなるべく良くした状態で手術を行っています。その上で、患者さんの呼吸機能や全身状態に応じて手術法、肺の切除範囲を決めています。低肺機能の患者さんや早期がん、転移性肺腫瘍の患者さんには、区域切除を積極的に行い肺機能の温存を目指しています。また、心臓病や糖尿病、腎不全などの併存症がある方は、大学病院としての特徴を活かし、手術前から各々の専門科と協力して診療を行うことで、合併症の予防に努めるとともに、手術後に生活の質が落ちないよう、息苦しくならないように気をつけています。

胸腔鏡手術(完全鏡視下手術)を積極的に行っています。区域切除の際には、解剖学的名区域(肉眼的には見えない区域)の同定を範囲従来の方法に加え、ICG蛍光区域間同定法を併用して行い、正確な切除範囲を決めています。また、リンパ節転移や隣り合った臓器への浸潤を伴う進行癌の手術も積極的に行っています。その際には血管形成や気管支形成、区域切除などの技術を用い、可能な限り肺全摘(片方の肺を全て摘出する手術)を回避するよう努めています。

呼吸器・アレルギー内科、放射線治療科、画像診断部と合同のカンファレンスを毎週行い、専門家の知識を集約して患者さん一人ひとりに合った治療の方針を決めています。化学療法や放射線治療を行う際の、他の専門科との連携もスムーズです。


| 主な疾患の診療実績
呼吸器外科-図1 呼吸器外科手術症例 疾患別(原発、転移、気胸、感染症など)2018-2025

当科の過去5年間の総手術症例は1,760例、昨年1年間の手術総数は284例でした。
当科の手術総数は近年250-300件程度で推移しております。

呼吸器外科-図2 肺腫瘍手術 胸腔鏡/開胸 2018-2025

手術アプローチとして、当科では手術の低侵襲化を目指しており、手術数全体の約8割を胸腔鏡手術で行っており、2021年からはロボット支援下胸腔鏡手術を導入しています。

呼吸器外科-図3 肺腫瘍の術式の割合の変遷と2018年術式割合

当科においては、前述の通り病気を切除しつつ、呼吸機能を温存する「根治性とQOLに配慮した手術」を目指しております。その為に、良性はもちろん、早期がん、転移性肺腫瘍に対して積極的に区域切除術を導入しております。現在は、全体の手術の約4割を区域切除術が占めています。
また、進行癌に対しては、極力、気管支形成や肺動脈形成術などの技術を用いて、肺全摘(片肺をすべて取る手術)を回避し、2018年以降で肺全摘は全手術の0.2%以下です。

肺癌において手術治療を受けた方の一般的な予後を示します。
5年生存割合とは、その病気の治療後5年間で何%の方が生存しているかの値であり、他の病気で亡くなった場合にも割合が下がります。

 臨床病期
病理病期症例数(例)5年生存割合(%)
0期110097
IA1期219991.6
IA2期385781.4
IA3期270474.8
IB期230971.5
IIA期64160.2
IIB期156158.1
IIIA期117650.6
IIIB期32640.5
IIIC期1737.5
IVA/IVB期48410

出典元:2010 年肺癌外科切除例の全国集計に関する肺癌登録合同委員会報告


| 専門外来・特殊外来

当科の代表的疾患は肺腫瘍、胸腺腫瘍(重症筋無力症合併も含む)、縦隔腫瘍、胸壁・胸膜腫瘍、気胸・肺嚢胞性疾患、胸部外傷などです。また、他科からの依頼がありましたら気管切開、胸腔ドレーン挿入、肋骨骨折術、間質性肺炎の切除生検なども行っております。

肺腫瘍手術の目的は肺腫瘍病巣の外科的切除です。まだ病理診断がついていない場合には、診断確定も目的となります。肺癌診療ガイドラインでは非小細胞肺癌において臨床病期Ⅰ、Ⅱ期には外科治療を行うよう強く勧められます(グレードA)。ⅢA期に関しては、病状によって手術をする場合と放射線化学療法を行う場合があります。手術により腫瘍は取り除かれ、原発巣に対する治療としては実績のある治療方法です。切除した腫瘍やリンパ節の病理検査により、肺癌の細胞の悪性度、腫瘍の拡がりについて詳しく調べることができます。その結果、一人一人に適した術後の治療の選択や経過観察の方法が選択できます。

縦隔腫瘍は術前に組織学的診断が難しいことが多く、診断および治療を兼ねた手術となります。画像上、良性腫瘍でも大きいものや増大傾向のあるもの、悪性が疑われるものは手術適応となります。画像所見から胸腔鏡での手術が可能と判断される場合には、胸腔鏡による手術をお勧めしています。

重症筋無力症は、筋肉の易疲労性が起こる自己免疫疾患です。神経と筋肉の接ぎ目において、脳の命令によって神経側から遊離される神経伝達物質の筋肉側の受け皿が自己抗体により攻撃されることが原因と考えられています。治療としてはまず薬物療法が行われますが、60歳以下、自己抗体陽性、全身症状や日常生活に支障ある眼症状がある場合、手術の良い適応となります。胸腺腫が有る場合には手術の絶対的適応となります。当科では拡大胸腺摘出術(従来の胸骨正中切開による開胸または胸腔鏡下での手術)を行っております。治療の目的は重症筋無力症の改善および胸腺腫の治癒です。

胸壁腫瘍は胸壁(肋骨や胸壁の胸膜、筋肉、神経)に生じた腫瘍で、そこから発生した原発性胸壁腫瘍と他の悪性腫瘍の胸壁転移、隣接臓器からの直接浸潤があります。また、胸膜腫瘍には、肺側の胸膜(臓側胸膜)から発生した腫瘍と胸壁側の胸膜(壁側胸膜)から発生した腫瘍が含まれます。手術の目的は胸壁腫瘍病巣を外科的切除です。また病理診断がついていない場合は、確定診断も目的となります。

気胸とは肺から空気がもれて、胸腔にたまっている状態をいいます。空気が漏れてたまっても、胸は肋骨があるために風船のように外側に膨らむことはできません。その代わり、肺が空気に押されて小さくなります。つまり、肺から空気がもれて、肺が小さくなった状況が気胸なのです。気胸の問題点は穴がふさがらず、空気が漏れ続けるときです。また、しばしば再発を起こすことも問題です(約50%)。気胸の分類には自然気胸、続発性気胸、外傷性気胸、月経随伴性気胸、緊張性気胸などがあります。気胸手術の目的は、気胸の原因となっている病変を外科的に切除、縫合することです。

骨折した肋骨を外科的につなぎ合わせることが目的です。手術は通常、以下の場合に行われます:胸郭動揺が見られる場合、呼吸状態が悪く、長期にわたり人工呼吸器などの呼吸補助が必要な場合、肋骨のずれが大きい場合、長期にわたり疼痛が続く場合などです。

肺は肺胞というブドウの房状の小さな袋がたくさん集まってできています。間質性肺炎は、この肺胞の壁の正常構造が壊れて線維化が起こる病気です。肺胞の壁を通して人は酸素を取り込んでいますが、この壁が固く、厚くなるために、酸素が取り込みづらくなります。間質性肺炎の原因はさまざまで、膠原病、じん肺、放射線、アレルギー性のものなどがありますが、原因不明のものを特発性間質性肺炎といいます。手術による肺切除生検は、画像検査や気管支鏡検査で正確な病気の診断がつかない場合、さらには治療の必要性が高く、より詳しい顕微鏡的な所見が必要な場合に行います。文献的には手術による肺生検の診断率は98%とされております。